正確にはサンチョ・パンサの代演と言った方が良いのかもしれません。

ある夜、湯船に浸かってぼーっとしていたところ携帯電話が鳴りました。ほとんど最近は電話をすることもなく、電話の主は20年も一緒に仕事をしている同僚であり、ヴィオラ奏者でもあるのですが・・スマホに名前を登録していませんでした。

こんな時間に誰だろう・・とかけ直してみると

「ドン・キホーテの独奏弾ける?」みたいな内容で・・・彼がヴィオラ奏者として演奏するつもりが、ドン・キホーテの編曲がアンサンブルに複雑なため、その同僚はヴィオラ→指揮をすることになり、今、緊急でヴィオラ奏者を探している、とのこと。

一瞬、ヴィオラ奏者を探すよりも指揮者を探す方が簡単なのでは??などと思いましたが、かなり切羽詰まった緊迫感が電話の向こうに感じられ、私もサンチョ・パンサの独奏部分は弾いたことがあったので快諾しました。本番まで5日しかありません。

さあ、そこから・・本番の日は息子の日本語補習校の受付当番と重なっており、この当番の代理を見つけなければなりませんでした。保護者が60人ほど登録しているwhats appグループに尋ねてみましたが、何の反応もなし・・土曜日のコンサートで弾くと決めたからには、誰かに代わってもらわないとなりません。加えて学校まで息子をお迎えするシッターさんも見つからず、楽譜も見なければならないけど、当番代理、お迎え・・しかも、同僚からの電話で聞いていたのは「シュトラウスのサンチョ・パンサ独奏を弾ければ大丈夫」みたいな話でしたが、編曲はシュトラウスとは全く違う現代風で、独奏部分よりもアンサンブルの部分の譜読みをしないとならず、元々あったスケジュールのオーケストラの練習と本番も連日重なっていて、自分でもどうやって乗り切ったのか・・急に重なった事態が大変な割に楽しんでもいました。アンサンブルのメンバーも気の知れたコンセルトヘボウのメンバーだったのが幸いでした。本番で緊張なく弾けるのは、息子のことで心配なく本番を迎えることです。今回は急だったのに補習校の2人のお母様が手を差し伸べて下さって、本当に助かりました。

2002年にサイトウキネン・フェスティバルでロストロポーヴィチの最後のコンサートがドン・キホーテで、この時にきちんと学んだのが身体に入っていて良かったです。私の手元にある記録はブルーレイですがYoutubeにもその時の演奏の記録(指揮:小澤征爾)が残っていて、店村先生のサンチョ・パンサも素敵でした。私が代演したドン・キホーテのチェロ独奏はオランダの若手チェリストJoris van den Bergさん。チェロの独奏、本当に素晴らしかったです。またヴィオラ→指揮をしたMichael Gielerさんも5日間で指揮をしなければなかったのに、ピッタリ合わせて下さいました。指揮の他にも演奏、企画マルチでこなして、舞台のことを常に考えていて本当に勉強になりました。周りの音楽家が努力していると私も刺激になります。