子供のためのコンサート

最近は北欧の年金や教育事情が日本でも話題になっています。今回は2019年に出演しました子供のためのコンサート、そして今話題になっているオランダの医療や年金制度も取り上げていきたいと思います。

―子供のためのコンサート(オランダ)

コンセルトヘボウ管弦楽団はコンセルトヘボウという美しい音響のあるホールをレジデンスホールとして使用しているため、どのコンサートもコンセルトヘボウ管弦楽団が演奏している、と思われることがあります。コンセルトヘボウ管弦楽団はオーケストラとしてホールがある建物とは全く別の団体です。そのため、事務所はコンセルトヘボウとは別の場所にありますが、2019年に改築されました。そしてその改築に伴い、小ホールや練習室を開設しました。何と、今までオーケストラ専用の練習室がありませんでした。そして日本でいう会議室くらいのスペースですが、コンサートが出来るようなホールが出来て、録音もできるような仕組みになっています。

その新しいホールが開設された時期に、オーケストラメンバーの何人かでサン・サーンス作曲「動物の謝肉祭」をオランダの小学校の生徒達に演奏しました。この曲は1曲ごとにタイトルがあり、亀、カンガルー、白鳥、象などの動物をテーマにした曲を演奏するため、子供達にも聞きやすい曲です。演奏者の他に、オランダ人の音楽家が曲や楽器の説明をしました。この日はアムステルダム近郊の3校の生徒をご招待しました。年齢は4歳から6歳まで。
また、演奏の後には子供用のバイオリンを貸し出して、弾いてみたい子供達にデモンストレーションを行いました。私自身も4歳の頃に「子供の為の音楽教室」でバイオリンの先生のデモンストレーション演奏を聴いて、バイオリンを弾きたいと思い、このような出来事がきっかけでバイオリンを始めました。
コンサートではヴィオラ担当ですが、このバイオリンの楽器紹介もバイオリンの同僚と一緒に行いました。

オランダでは200人生徒を集められれば、誰でも学校を作って良い!という法律があります。公立学校の他にAlternative教育という、独自の教育に基づく学校がたくさんあります。ダルトン教育、モンテッソーリ教育、イエナプラン教育、シュタイナー教育が中でも有名です。

一番目はダルトン校、二番目がモンテッソーリ学校、三番目はアムステルダム郊外の普通校の生徒達でした。学校により、その子供達の喜び方や聴き方も様々でした。写真にある大きなライオンはこのコンサートを支援した銀行のキャラクターです。
小さなコンサートでしたが、わざわざ、着ぐるみに入るスタッフまでいました。

―高校生のための音楽教育(オランダ)

コンセルトヘボウ管弦楽団では、高校生を対象としたカリキュラムがあります。
オーケストラは毎週新しいプログラムをコンサートに向けて月曜日から水曜日まで練習します。そのリハーサルを高校生に公開しているのです。
その高校生達も音楽・芸術クラスを受講している学生のみを一回につき2校の学生達をご招待しています。例えば、ある火曜日のリハーサルの時間に、この受講にオーケストラのメンバーとして紹介されました。(リハーサルと同時進行の為、この授業に携わるには、私はオーケストラを休んでいないとなりません。)楽器の演奏、説明、そして、学生の質問に答えました。良く訊かれるのは練習時間やお給料のことです。一般職のように9:30-18:00まで働くのとは違い、リハーサルの時間帯は短い反面、ツアーになると何週間も旅行に行かなければならないことなども説明しました。授業では、クラシック音楽専門の先生が、その週に演奏される曲目、そして指揮者について学生達にレクチャーします。レクチャーの最後に私が呼ばれて楽器紹介をします、そして1曲独奏しました。最初の頃は、よくわからずレーガーやバッハの無伴奏を演奏していましたが、反応が寂しく、息子の年齢から喜ばれているディズニーのアナと雪の女王のテーマソングに変えました。高校生といえども、わかりやすいメロディーが良いです。
学生にとっても、コンセルトヘボウの大ホールでオーケストラの生演奏が聴けるのは貴重な経験だと思います。そして音楽を聴くこと以外にも、コンセルトヘボウの建物を見学して回るのです。多くの学生達は楽器を演奏した経験を持っていました。普段オランダの高校生くらいの年代の子達とは話したり、会ったりすることはないので、良い経験になりました。

―中学生のためのコンサート(長野県松本市)

2019年は、偶然にも日本でも子供のためのコンサートに出演する機会がありました。
Seiji Ozawa Festivalの中のプログラムで曲目はプロコフィエフ作曲「ピーターと狼」でした。これは、ヨーロッパでは子供の為のコンサートでは必ず演奏する曲です。
指揮者がヨーロッパの方だから、この曲目になったのかな、と思っていましたが実際、ナレーションとして俳優のムロツヨシさんがリハーサルに立ち会ってから納得できました。ムロツヨシさん自身はピーター役やおじいさん役と一人何役もの一人芝居で参加しましたが、オーケストラの後方にはスクリーンが用意され、そこにピーターや狼、アヒルなどの絵も合わせて演奏されました。日本語のナレーションがしっくり来たからか、今まで経験した子供の為のコンサートの中で一番、笑ったナレーションでした。そしてよく言うアドリブというのが何なのか、リハーサルを通じて理解出来ました。
対象は長野県内59校の中学1年生のみ(約4000人)がご招待されました。
オランダのコンサートとはスケールが違いますが、本当に静かにきちんと整列して入場し、拍手のタイミングもきちんと守り、あまりにもオランダの学生達と違うので驚きました。

4歳の息子も特別にリハーサルを聞かせてもらいました。その日からムロツヨシさんの真似で「僕はピーター。僕が先頭!」というセリフを何回も繰り返していました。
それを見ながら、松本に滞在する前に受けた息子のギターのレッスンを思い出しました。

そこでは、日本の若手のギター演奏家が子供に真剣に向き合っていました。子供だからといって妥協は必要無いのです。子供が小さいうちから一流の演奏に触れることで、子供の才能は、どんどん伸びていくものなのだと思いました。
松本でのムロツヨシさんは別分野の方ですが、やはり第一線で舞台、テレビで活躍なさっています。そういったキラキラしている才能に子供達が実際に触れ合い、同時にサイトウキネンオーケストラの演奏を聴くことは、今後の大きな財産になると思います。私もこの経験を生かして、音楽と子供達が同時に触れ合う機会をもっとたくさん作っていきたいと思います。

さて日本で問題になっている医療・年金問題についても少し触れてみたいと思います。
北欧は、北欧は・・・と言われますが、一重にオランダが日本より優れている、とは言い切れません。
医療については、オランダでは民間の保険会社と契約します。
この保険会社を見つけるのも一苦労ですが、私の場合はコンセルトヘボウ管弦楽団と繋がっている会社にしています。
そして、まず病気になったらホームドクターに診てもらわないとなりません。
これが一番のネックとなります。ホームドクターは眼科、耳鼻科、内科、外科、小児科の初診をするのです。当然、誤診は出てきます。そして、相当重症でないと専門医に紹介されません。医療に関しては、すぐに受診できて専門医に診てもらえる日本の方が断然良いと思います。

オランダの年金は受給年齢は65歳、2021年には67歳が開始年齢となります。
受給額は、それまで払った期間、金額にも寄りますが日本の受給額と比べると断然多いです。システムとしては、お給料の大部分が税金と年金、健康保険に取られてしまうので現役時代に受け取る金額が日本より少なくなっています。そして消費税に関しては食料品など生活に関する物の消費税は9%、そして洋服、電話代、修理代、電化製品などは21%です。
また、これだけ税金を支払っていると、公共の建物の工事なども(税金で支払われているため)気になります。例えば、アムステルダムの南北線の地下鉄は、2002年に工事が始まり、いっこうに完成しないまま、長い長い工事期間を経て、2018年にやっと完成しました。当初の完成予定時期は2005年と言われていました。工事費は31億ユーロだそうです。
もし私の支払っている税金がこの工事費に含まれていたのなら、完成した今、新しい電車に乗れて良かったと思います。オランダ人は大らかな人が多いので、このような部分でもあまり気にしない人達が多いようです。根本的に北欧は税率が高いので、日本の参考になるかどうかわかりませんが、日本の礼儀正しい若者を見て、明るい未来が作られるように願っています。

2020年ブラームス協会”海外通信”寄稿